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「雄マウスの求愛歌は遺伝的に多様であった」

1.発表者

菊水 健史 (麻布大学 獣医学部 動物応用科学科 教授)

中西 香織 (麻布大学 獣医学部 動物応用科学科 大学院生)

仲川 涼子 (千葉大学 大学院 融合科学研究科 大学院生)

永澤 美保 (麻布大学 獣医学部 動物応用科学科 特任助教)

茂木 一孝 (麻布大学 獣医学部 動物応用科学科 講師)

岡ノ谷 一夫 (理研BSI 生物言語研究チームチームリーダー、ERATO 岡ノ谷情動情報プロジェクト総括、東京大学大学院総合文化研究科教授)

 2.発表概要

雄マウスが雌と遭遇すると超音波領域で歌を歌う。今回、この歌の多様性が遺伝的に制御されていることが明らかとなった。

3.発表内容

いくつかの動物種では、雄と雌が出会った際に、求愛ディスプレーとして、オスからの積極的な歌が観察されます。例えば、鳥のさえずりなどが有名で、この歌を聴くことで雌は雄の良し悪しを判断し、交配相手を選びます。2005年にT. Holyらの研究により、マウスでもヒトには聞こえない高い超音波領域の声を使って、雄マウスが雌マウスに歌を歌うことが明らかとなりました。

鳥の歌は、非常に興味深い特徴を持っており、父親などのチューターと言われる成鳥の歌を幼少期に聞くことで、歌の鋳型を記憶します。性成熟を迎えると、その鋳型を基に自分の歌を獲得していきます。この歌学習は、ヒトの言語学習に近似していることから、鳥の歌はこれまで広く言語モデルとして使われてきました。しかし、マウスの歌に関して、どれほど多様性があり、それが遺伝子によって決まっているものか、それとも幼少期の音声学習によるものかは明らかにされていませんでした。

今回我々は、このマウスの歌には系統によって大きな多様性が保持されており、この多様性は遺伝的に制御されていることを実証しました。

まず、遺伝的に離れているC57BL/6の雄マウスとBALB/C系統の雄マウスの歌を比較しました。この2つの系統において、周波数や歌要素の持続時間のみならず、音節(Syllable)の発現率とそのシークエンス構造が大きく異なっていることが明らかとなりました。このことから、これら2つの系統では異なった歌を歌うことが明らかとなりました。

 次に、これら2系統のマウスに出生後間もなく里子操作を施し、発達期における音声環境を逆転させました。このことで、環境から学習する音声があるとすれば、育ての親の歌に似た声で歌うことになることになります。しかし、里子操作によっても、これら2系統の歌の特徴は維持され、それぞれが遺伝的な親の歌と同じ歌を歌うことが明らかとなりました。

 このように、本研究では、マウスの求愛歌の形成要因が遺伝子で決定されていることを、世界ではじめて明らかにしました。この研究で得られた成果は、動物の繁殖機能を制御するという応用的側面での利用が期待されますが、その一方で、「非常に多様性を持っているマウスの歌を遺伝子がどのように決定しているのか」という行動遺伝学における基礎的課題に対しても、大きな前進を得たことになります。言語障害や自閉症のような発達性障害に認められる言語獲得のモデルとしても非常に価値が高く、言語遺伝子と歌の関係性の研究が今後大きく発展することも期待されます。

 


B6 mouse のソノグラム

BALB mouse のソノグラム

聴けます!これら超音波を1/16の周波数に落としたWAVファイルです。

B6 Song

BALB Song

4.発表雑誌

雑誌:PLoS One

著者:Takefumi Kikusui, Kaori Nakanishi, Ryoko Nakagawa, Miho Nagasawa, Kazutaka Mogi, and Kazuo Okanoya

題名:Cross fostering experiments suggest that mice songs are innate

 5.問い合わせ先

  麻布大学 獣医学部 動物応用科学科 教授

  菊水 健史

Tel 042-769-1853

      Fax 042-850-2513

      E-mail kikusui@azabu-u.ac.jp

 7.用語解説

求愛歌

繁殖期に雄と雌が遭遇し、雄の性的ディスプレーとして観察される。繁殖期のジュウシマツやカナリアなどが有名である。その他にも、カエルやコウモリなどでも観察されている。複数のSyllable(下記)が、ある一定の法則で並んだ音節を形成し、その音節がある程度の規則に従って繰り返されることで、歌のメロディーが形成される。メスはこの歌の複雑さや自分の親鳥からの遺伝的な距離を知る手掛かりとして利用し、自分の適切な交配相手を探す重要な手段として用いている。このことは、歌が配偶者選択の重要な要素として機能するといえる。

 音節(Syllable

音声学的な一かたまりの音連続。音声学的音節。歌では1音節が音符1つ分に相当するのが一般的。ヒトの言語においては、通常一まとまりの音として意識され、発音される単位。日本語ではほぼ仮名一字が一音節にあたる。

 里子操作

出生後まもない間(12時間以内)に同時に出産した他の父母ペアに新生仔を移動させ、遺伝的な親と育ての親を入れ替える作業。この作業を施すことで、発達期環境を逆転することができる。里子操作により、配偶者選択の嗜好性が変化することが、マウスやトリで知られている。

 言語遺伝子

言語障害をもつヒトの家系で同定された遺伝子。言語に関係すると推定される遺伝子は2001年にAnthony Monaco教授の率いる研究チームにより、遺伝的に言語障害をもつ家系から同定され、FOXP2遺伝子と名づけられた。このFOXP2遺伝子はオラウータン、ゴリラ、チンパンジー、マウスでもほぼ同じ形で保存されていることから、マウスでの機能解析も進んでおり、この遺伝子を人為的に欠損させたマウスでは、超音波発声が変化することが知られている。

Ć
B6.WAV
(12858k)
Takefumi Kikusui,
2012/05/15 18:14
Ć
BALB.WAV
(12406k)
Takefumi Kikusui,
2012/05/15 18:14
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