Publications‎ > ‎

paper 2010-2011

[2008-2009]  [2010-2011]  [2012- ]


Hiroki Sugimoto, Shota Okabe, Masahiro Kato, Nobuyoshi Koshida, Toshihiko Shiroishi, Kazutaka Mogi, Takefumi Kikusui, Tsuyoshi Koide. A role for strain differences in waveforms of ultrasonic vocalizations during male–female interaction. PLoS One. 2011 6(7): e22093. doi:10.1371/journal.pone.0022093


これまで中西、菊水らの研究によって、マウスの超音波領域の求愛歌は遺伝的にそのパターンが制御されることが明らかとなっていた。今回、国立遺伝学研究所の小出先生、杉本研究員らとの共同研究として、世界各地から集めた野生種のマウスの歌の解析を行った。様々な系統のマウスが異なった歌構造を持つ声を出していることが明らかとなり、その歌の構造は遺伝的距離との間に相関が認められず、独自の遺伝的浮動によって進化獲得されてきた可能性が示された。さらにその歌の成分から、よりメスに好まれる成分を抽出し、実際に雌マウスに聞かせたところ、他の成分の音声よりも高い嗜好性を示し、雌マウスが接近していくことが観察された。これらのことから、オスの求愛歌は、遺伝的制御をうけながら、遺伝的浮動様式で発達し、その音声の違いがメスの交配嗜好性の手がかりとして利用されていることが始めて明らかとなった。


Mitsui S, Yamamoto M, Nagasawa M, Mogi K, Kikusui T, Ohtani N, Ohta M. Urinary oxytocin as a noninvasive biomarker of positive emotion in dogs. Horm Behav. 2011 Aug;60(3):239-43. Epub 2011 Jun 14.


これまでの永澤の研究で、犬の飼い主が視線を上手に使って自分の犬と触れ合うことで、飼主の尿中オキシトシン濃度が上昇することが明らかとなっている。しかし、これまで犬のオキシトシンの反応性を調べた研究はなかった。今回、その基礎的実験として、犬の血中にオキシトシンを投与した場合、尿中にどのような時間スケールで排泄されるか、さらに犬の尿中オキシトシンを指標として、どのような生理的刺激が犬のオキシトシンを上昇させるかを調べた。血中に投与したオキシトシンは速やかに尿中に移行し、投与後60分をピークとした代謝が認められた。また摂食、飲水、体を触るなどの刺激を与えたところ、犬の体を撫でてあげる刺激が最も尿中のオキシトシン濃度を上昇させることが明らかとなった。このことから、犬においても尿中のオキシトシンを指標に、犬の脳内オキシトシン神経系の反応をモニタすることが出来ること、さらに身体接触などの刺激は犬のオキシトシン濃度を上昇させることが示された。


Kikusui T, Nakanishi K, Nakagawa R, Nagasawa M, Mogi K, Okanoya K. Cross fostering experiments suggest that mice songs are innate. PLoS One. 2011 Mar 9;6(3):e17721.


いくつかの動物種では、雄と雌が出会った際に、求愛ディスプレーとして、オスからの積極的な歌が観察されます。例えば、鳥のさえずりなどが有名で、この歌を聴くことで雌は雄の良し悪しを判断し、交配相手を選びます。2005年にT. Holyらの研究により、マウスでもヒトには聞こえない高い超音波領域の声を使って、雄マウスが雌マウスに歌を歌うことが明らかとなりました。鳥の歌は、非常に興味深い特徴を持っており、父親などのチューターと言われる成鳥の歌を幼少期に聞くことで、歌の鋳型を記憶します。性成熟を迎えると、その鋳型を基に自分の歌を獲得していきます。この歌学習は、ヒトの言語学習に近似していることから、鳥の歌はこれまで広く言語モデルとして使われてきました。しかし、マウスの歌に関して、どれほど多様性があり、それが遺伝子によって決まっているものか、それとも幼少期の音声学習によるものかは明らかにされていませんでした。今回我々は、このマウスの歌には系統によって大きな多様性が保持されており、この多様性は遺伝的に制御されていることを実証しました。まず、遺伝的に離れているC57BL/6の雄マウスとBALB/C系統の雄マウスの歌を比較しました。この2つの系統において、周波数や歌要素の持続時間のみならず、音節(Syllable)の発現率とそのシークエンス構造が大きく異なっていることが明らかとなりました。このことから、これら2つの系統では異なった歌を歌うことが明らかとなりました。次に、これら2系統のマウスに出生後間もなく里子操作を施し、発達期における音声環境を逆転させました。このことで、環境から学習する音声があるとすれば、育ての親の歌に似た声で歌うことになることになります。しかし、里子操作によっても、これら2系統の歌の特徴は維持され、それぞれが遺伝的な親の歌と同じ歌を歌うことが明らかとなりました。このように、本研究では、マウスの求愛歌の形成要因が遺伝子で決定されていることを、世界ではじめて明らかにしました。この研究で得られた成果は、動物の繁殖機能を制御するという応用的側面での利用が期待されますが、その一方で、「非常に多様性を持っているマウスの歌を遺伝子がどのように決定しているのか」という行動遺伝学における基礎的課題に対しても、大きな前進を得たことになります。言語障害や自閉症のような発達性障害に認められる言語獲得のモデルとしても非常に価値が高く、言語遺伝子と歌の関係性の研究が今後大きく発展することも期待されます。


Nagasawa M, Murai K, Mogi K, Kikusui T. Dogs can discriminate human smiling faces from blank expressions. Anim Cogn. 2011 Feb 26


イヌがオオカミから分岐し、ヒトとこれほどまでに密接な関係を結ぶことができるようになった経緯ついては、いまだ明らかになっていません。しかし、イヌが進化の過程でヒトに似たコミュニケーション・スキルを獲得してきたことはすでに多くの研究で示されており、その能力が現在のようなヒトとの共生関係を可能にした大きな要因であると考えられています。また、そのようなイヌの社会的認知能力は、ヒトの近縁種であるチンパンジーやイヌの祖先のオオカミよりも優れている点があることがわかっており、イヌの進化過程を解明する鍵として非常に重要な研究対象となっています。そこで今回我々は、イヌの持つヒトに似たコミュニケーション・スキルの一環として、ヒト同士のコミュニケーションにおいて非常に重要であるヒトの表情弁別がイヌでも可能かどうかを調査し、イヌがヒトの笑顔と無表情を弁別できることを明らかにしました。まず、飼い主の笑顔を無表情の写真の弁別訓練を行い、その後、本実験において、飼い主のさまざまな笑顔と無表情の写真や、複数の見知らぬ男女の笑顔と無表情の写真をイヌに対して並置呈示しました。その結果、どのイヌも飼い主および飼い主と同性の見知らぬ人の写真呈示において、有意に高い確率で笑顔を選択することがわかりました。本研究は、イヌが人の表情を弁別することができることを世界で初めて明らかにしました。ヒトの近縁であり顔構造も極めて類似している霊長類においても、ヒトの表情弁別は部分的に困難であると言われていますが、本研究によって、イヌがヒト社会において、ヒトの表情を認識しながらより調和的に行動している可能性が示されました。これはヒトとイヌとの共生関係構築の理解のみならず、ヒト‐ヒト間での円滑な視覚的コミュニケーション成立のメカニズム解明のモデルとしても非常に高い価値が期待されます。


Nagasawa M, Tsujimura A, Tateishi K, Mogi K, Ohta M, Serpell JA, Kikusui T. Assessment of the Factorial Structures of the C-BARQ in Japan. J Vet Med Sci. 2011 Feb 21.


アメリカペンシルベニア大学のJames Serpell博士らは犬の行動解析をWEBで質問に応えることで可能とするC-barq (Canine Behavioral Assessment and Research Questionnaire)を開発してきた。今回、同じ質問項目を日本で実施し、その質問から得られた回答から、犬の行動の日米間比較を行った。因子分析を行ったところ、アメリカ版と日本版では多少の軸の変化、さらには軸における質問の関連が異なっていたものの、ほぼ同等の結果が得られた。このことから、日本語版となったC-barqでもアメリカと同じように、犬の行動解析が可能であること、さらにはその解析結果が信頼に値することが明らかとなった。


Chida D, Miyoshi K, Sato T, Yoda T, Kikusui T, Iwakura Y. The role of glucocorticoids in pregnancy, parturition, lactation, and nurturing in melanocortin receptor 2–deficient mice. Endocrinology 2011 Feb 8..


Mogi K., Nagasawa M., Kikusui T. Developmental Consequences and Biological Significance of Mother-infant Bonding.  Prog Neuropsychopharmacol Biol Psych2010 Sep 9.  

       (簡約)母子間における絆の発達形成とその生物学的意義に関する総説

“母と子の絆”は生物学的に存在するのだろうか?この特別な関係性は主にヒトの心理学領域で語られてきたが、ヒト以外の哺乳類の研究でも、この絆によって子の社会性や情動反応などが適切に発達することが明らかになってきた。しかし、この絆は子の出生直後から形成されているわけではない。本稿前半では主にげっ歯類の研究から、絆形成を促進させるのに重要な嗅覚や聴覚を駆使した母子間の相互コミュニケーションの詳細と、その絆形成を支える神経機構を概説する。げっ歯類では母や仔の発するフェロモンや超音波などが絆形成に関与することが示唆されている。また、母による子の弁別や母性の発現にはオキシトシン神経系などの関与が示唆されている。子側で関与する神経メカニズムには不明な点が多いが、本稿では本研究室のプレリミナルデータなどから、子側においてもオキシトシン神経系が重要な役割を担う仮説を展開してみたい。本稿後半では、母子間の絆形成が阻害されたときの子の発達障害を概説する。特に本研究室における早期離乳マウスモデルの社会行動・情動障害の詳細と、これまで明らかにしてきたその障害の神経メカニズムを紹介する。この絆形成の阻害はイヌやブタにおいても大きな影響を及ぼすことが示唆されている。母と子の絆とは未熟子が母の養育により発達し環境適応するような進化を遂げた哺乳類にとって共通の生物学的システムなのかもしれない。今後も比較生物学的観点と社会性発現メカニズム研究の更なる進展が母と子の絆の生物学的理解をさらに深めるであろう。


Ozawa M., Kikusui T, Takeuchi Y, Mori Y. Comparison of parental behavior and offspring’s anxiety behavior using a reciprocal F1 hybrid model.  J. Vet. Med. Sci. 2010 Dec;72(12):1589-96. Epub 2010 Aug 2.


(簡約)オスとメスによる養育行動と発達後の不安行動の形成

マウスはオスとメスによる共同養育が観察されるが、これら雌雄による養育行動がペアによって変化するのか、さらにはその変化が子の成長後の不安行動に影響を与えるかどうかを調べた。B6とBALBの2系統のマウスを使ってHybrid F1を作成し、養育行動を観察した。オスの養育行動は同系統のペアに比べ、異系統とのペアになると低下することが明らかとなり、ペアのメスの状態、あるいは養育対象である子の遺伝型によって養育行動を変化させる可能性が示された。また子の不安行動は親の毛づくろい行動よりむしろ、一緒にいた時間のほうとの関連性が見出された。これらはラットで言われたものと異なり、種特異的な養育行動と成長後の不安行動の関係性が示唆された。


Haga, S., Hattori, T., Sato T, Sato K, Matsuda S, Kobayakawa R, Sakano H, Yoshihara Y, Kikusui T, Touhara K. A male mouse pheromone ESP1 enhances female sexual receptive behavior via a select vomeronasal receptor. Nature 466, 118-122, 2010


(簡約) 雄マウスのフェロモンESP1は、特異的な鋤鼻受容体を介して雌の性的受け入れ行動を増強する


マウスのさまざまな社会的行動は、鋤鼻神経系を介して作用するフェロモンという化学的シグナルによって制御される。外分泌腺由来ペプチド 1(exocrine gland-secreting peptide 1;ESP1)は、雄の涙液中に分泌される7 kDaのペプチドであり、雌マウスの鋤鼻器官の感覚ニューロンを刺激する。今回我々は、鋤鼻系のESP1シグナル解読に関与し、雌マウスの行動出力へ導く分子的および神経的機構について述べる。ESP1は特異的な鋤鼻受容体V2Rp5によって認識され、このリガンド–受容体間の相互作用により、副嗅球を介して扁桃体および視床下部核へ性特異的なシグナルが伝達される。その結果、ESP1は雄のマウンティングに対する雌の受け入れ行動(ロードシス)を増強させ、交尾を成功させる。V2Rp5欠損マウスでは、ESP1は神経の活性化と性行動のいずれも誘発しない。以上の知見は、ESP1はマウス鋤鼻系に存在する特異的な1つの受容体によって雌の生殖行動を制御する、重要な雄フェロモンであることを示している。 


Aoki M, Shimozuru M, Kikusui T, Takeuchi Y, Mori Y.  Sex differences in behavioral and corticosterone responses to mild stressors in ICR mice are altered by ovariectomy in peripubertal period. Zool Sci. 2010 Oct;27(10):783-9..


(簡約)ストレスに対する内分泌反応の雌雄差に関する研究


これまでストレスに対する反応の雌雄差に関しては、ストレスに対する行動学的ならびに内分泌学的な比較が各々によって評価されていた。そこで今回はマウスを用い、十字迷路テストにおける不安行動とその後のグルココルチコイド値を測定し、因子分析によって、このような不安反応とストレス内分泌反応がどのように関連し、そして性差が存在するかを調べた。因子分析の結果、不安行動の軸と内分泌反応の軸は異なるものとして抽出された。また行動指標には雌雄差が認められず、内分泌反応には大きな雌雄差があり、メスのグルココルチコイド分泌が高いことが明らかとなった。また性腺を提出し、性ステロイドの処置を行い、同様の実験を行ったところ、卵巣摘出によりメスのグルココルチコイド分泌が低下したものの、その他の指標は影響を受けなかった。これらのことから、不安行動とストレス内分泌反応は異なった機構により制御されており、ストレス内分泌反応は雌で高いこと、またこの雌におけるストレス内分泌反応の上昇には卵巣由来の因子が関与する可能性が示唆された。


Okabe S, Nagasawa M, Kihara T, Kato M, Harada T, Koshida N, Mogi K, Kikusui T. The Effects of Social Experience and Gonadal Hormones on Retrieving Behavior of Mice and their Responses to Pup Ultrasonic Vocalizations.  Zool Sci.  2010 Oct;27(10):790-5.


(簡約)マウスの養育行動は社会経験によって強化され、また性ホルモンの支配をうける。


動物は、さまざまな社会経験やホルモン動態の影響をうけて、より適切な行動をとるようになる。養育行動はそのような観点から最も顕著な変化を受ける行動と言える。今回、オスとメスのマウスを用いて、養育行動が社会経験によって、どのように変化するかを調べた。また同時に仔マウスが母親から隔離されたときに発する超音波領域の音声(Pup USVs)への反応性を調べた。雌マウス、オスマウス共に、性腺摘出や性経験後、あるいは実際に育児を経験することによって、Pup USVsへの反応性が有意に高くなった。詳細の解析により、社会経験のない雌マウスではpup USVsに反応し、巣戻し行動同様、性経験や育児経験により反応性が上昇したが、雄マウスのpup USVsへの反応性には性経験や育児経験が必要であるが、巣戻し行動発現には性腺ホルモンによる抑制が強固であることが示された。このことから、pup USVsへの反応性と巣戻し行動に影響する生理条件やpup USVsが担う役割には雌雄差がある可能性が示された。


Comments